Home > 入国管理局

2012.02.08

最近の在留特別許可案件

=子の父はだれか疑義が残るケース=
1. インドネシア国籍の男性(A)は、1999年に架空人名義のパスポートを使用して不法入国し、茨城県などで就労していました。
タイ国籍の女性(B)は、日本人夫(C)と婚姻し、一児(D)を儲け、日本人の配偶者等の在留資格から永住許可を得ました。
2. やがて、BC夫婦は金銭的な理由等で不和になり、2008年11月に、Dの親権者をBと指定して協議離婚が成立しました。離婚当時、Bは妊娠中でした。BCは、離婚したもののBには自活力がなく、Bは離婚成立後9ヶ月間(2009年8月まで)、前夫Cのアパートで同居生活を継続していました。
3. BCが離婚した当時妊娠中だった子(E)は2009年5月に出生しました。Eは、BCが婚姻中に懐胎した子(また離婚した2008年11月から300日以内に出生した子)なので、民法772条の規定により、Cの子であるとの嫡出推定を受けます。繰り返しになりますが、BCは、Eの出生後も同居していたのです。
4. 追って、2009年8月、BDEは、Cの家を出て、Aと同居するに至りました。この時点から、ABDEの4名による同居生活が開始されました。
2010年4月中旬、AとBは、茨城県K市役所へ婚姻届を提出し、日本式婚姻を成立させました。同時に、Aは初めて外国人登録を申請しました。
5. 2010年4月下旬、Aは、東京入管調査第三部門在宅事件担当へ自己出頭しました。
その席で、ABは、「Eの血縁上の父はAである」と述べています。
入管は、「Eの戸籍上の父訂正申立てを証明するもの」を追完するよう要求しました。
6. 本件のように、戸籍上は日本人前夫の子となっているが、血縁上は外国人後夫の子である、というケースは、日常的に見かけるほどの多数に上ります。
7. 入管は、「Eの血縁上の父がAならば、そのように戸籍(公簿)も直すべきだ。公文書に本当の父が記載されていなければ、子供が可愛そうだ。」と言い、一方で、当事者のAB夫妻は、「子供がCの子でなくなることにより、日本国籍を喪失するのは可愛そうだ」という言い分です。
8. 親子関係は法が決めるのか、血縁が決めるのか。これについては、その時々の法制度や倫理観などによって、変遷してゆくものでしょう。近年、DNA鑑定が一般化し、「親子関係は血が決める」という考え方が台頭しつつあるように感じられますが、わが国の民法は「親子関係は法が決める。子の親が後年になってから変更されたのでは、子の法的立場が安定せず子の福祉に反する。」という立場に立つものと思われます(特に、民法776条、777条)。
9. さて、入管が要求した「Eの戸籍上の父訂正申立てを証明するもの」について、どう回答すべきか考えました。
ポイントは、一般的な案件とは違い、BC元夫婦が、妊娠当時も、離婚後も、出産後までも、同居生活を継続していた、という点です。
仮に、AがEを血縁上の実子だと思っていたとしても、BCが同居していた事実は、家庭裁判所が一般的に説明する「別居等で妻が夫の子どもを妊娠する可能性がないことが客観的に明白である」には当たりません。
そこで、下記点線以下の上申書と家裁による嫡出否認及び親子関係不存在確認に関する説明(以下「本件説明書類」と言います)を添付して、提出することにしました。
これで、入管がなお「EはCの子ではなくAの子である」旨の書類を要求してくるなら、親子関係不存在確認調停・審判を提起した上、家裁がDNA鑑定の結果、「EはCの子ではない」と審判するならそれもよし。家裁の一般的な説明どおりBCの同居事実等により「EはCの子ではない、と申し立てることはできない」として却下するならそれもよし。と腹をくくって本件説明書類を提出しました。
10. ほかに、BCのインドネシア及びタイ発行の婚姻証明書を追加提出しました。
11. その結果、入管は、以後、本件説明書類に関する言及をせず、この説明を是認した形になりました。
Aにつき、同年7月に仮放免許可、同年8月に在留特別許可により永住者の配偶者等の在留資格を付与されました。
—————–
東京入国管理局 調査第三部門 在宅事件担当 御中
上 申 書
平成23年4月××日出頭(23-○○××)                         出頭申告者 A
 私は上記出頭日において、追加書類として「次女Eの戸籍上の父訂正申立てを証明するもの」を求められました。
 これについて、調査した結果をこの上申書として提出します。
1 Eは、平成21年5月○○日に出生しました。父Cと母Bが離婚した平成20年11月○日から300日以内に出生した子供ですので、資料3にある民法772条の規定により、Cの子供であるとの推定を受けます。
2 EがCの子供ではないとする方法は2つあることがわかりました。
まず、戸籍上の父であるCから裁判を起こす方法ですが、嫡出否認は、資料1や資料3にある民法777条により、CがEの出生を知って1年以内に提起しなければならないとされているところ、出生当時、Cは生母であるBと同居中でしたから、出生日のうちにEの誕生を知っていました。Eの出生は平成21年5月○○日であり、同日から既に1年以上が経過していますから、この裁判を起こすことはできません。
3 次に、EのほうからCが父親でないという裁判を起こす方法ですが、親子関係不存在確認は、資料2にあるとおり「夫が長期の海外出張,受刑,別居等で子の母と性的交渉がなかった場合など,妻が夫の子どもを妊娠する可能性がないことが客観的に明白である場合には,夫の子であるとの推定を受けないことになる」という条件があります。Eの出生は平成21年5月○○日であり、CとBは、平成21年8月○○日まで同居していたのですから(※)家庭裁判所が言う「別居等で妻が夫の子どもを妊娠する可能性がないことが客観的に明白である」とは言えません。よって、この方法によっても、CとEの間の親子関係を否定することはできません。
(※)上記出頭申告日に提出した陳述書中の「8 婚姻について」にも記してあるところです。CとBは、離婚後9ヶ月間、同居していました。同居期間の最後は、現在の居住地への移転日が平成21年8月○○日となっていることから明白です。
以上により、冒頭ご指示の書面を提出することはできません。
これに相違ないので、夫婦連名で署名の上、提出いたします。
2011年6月○○日
出頭申告者 A
妻     B

資料1(家庭裁判所の説明)
http://www.courts.go.jp/saiban/syurui/kazi/kazi_07_15.html
嫡出否認調停
1 概要
 婚姻中又は離婚後300日以内に生まれた子どもは,婚姻中の夫婦間にできた子(嫡出子)と推定されるため,仮に他の男性との間に生まれた子どもであっても出生届を提出すると夫との間の子どもとして戸籍に入籍することになります。
 この夫との間の子どもであるとの推定を否定するためには,家庭裁判所に対して,夫からその子どもが自分の子どもであることの否認を求める嫡出否認の調停を申し立てる必要があります。この申立ては,民法により,夫が子の出生を知ったときから1年以内にしなければならないと定められています(なお,出生を知ってから1年経過後など,嫡出否認の申立ての要件を満たさないと思われるような場合でも,親子関係不存在確認の申立てによることができるケースもあります。)。
 この調停において,当事者双方の間で,子どもが夫の子どもではないという合意ができ,家庭裁判所が必要な事実の調査等を行った上で,その合意が正当であると認めれば,合意に従った審判がなされます。
※ 婚姻の解消又は取消し後300日以内に生まれた子の出生の届出の取扱いについて
 婚姻の解消又は取消し後300日以内に生まれた子のうち,医師の作成した「懐胎時期に関する証明書」が添付され,当該証明書の記載から,推定される懐胎の時期の最も早い日が婚姻の解消又は取消し後である場合には,前の夫を父としない出生の届出をすることができることとされています。詳細については,最寄りの戸籍役場にお問い合わせください。

資料2(家庭裁判所の説明)
http://www.courts.go.jp/saiban/syurui/kazi/kazi_07_16.html
親子関係不存在確認調停
1 概要
 婚姻中又は離婚後300日以内に生まれた子どもは,婚姻中の夫婦間にできた子(嫡出子)と推定され,仮に他の男性との間に生まれた子どもであっても出生届を提出すると夫婦の子どもとして戸籍に入籍することになります。
 夫との間の子どもであることを否定するためには,原則として嫡出否認の手続きによることになります。
 しかし,婚姻中又は離婚後300日以内に生まれた子どもであっても,夫が長期の海外出張,受刑,別居等で子の母と性的交渉がなかった場合など,妻が夫の子どもを妊娠する可能性がないことが客観的に明白である場合には,夫の子であるとの推定を受けないことになるので,そのような場合には,家庭裁判所に親子関係不存在確認の調停の申立てをすることができます。
 なお,上記のような父子関係不存在のほか,何らかの事情により真実の母親ではない人の子どもとして戸籍に入籍しているような母子関係不存在のケースも,本手続きによることになります。
 この調停において,当事者双方の間で,子どもが夫婦の子どもではないという合意ができ,家庭裁判所が必要な事実の調査等を行った上で,その合意が正当であると認めれば,合意に従った審判がなされます。
 このほか,前の夫の子であるとの推定を受けない子については,子から実父を相手とする認知請求の調停を申し立てる方法もあります。

資料3(法律)
法の適用に関する通則法
(嫡出である子の親子関係の成立)
第二十八条  夫婦の一方の本国法で子の出生の当時におけるものにより子が嫡出となるべきときは、その子は、嫡出である子とする。
2  夫が子の出生前に死亡したときは、その死亡の当時における夫の本国法を前項の夫の本国法とみなす。
民法
(嫡出の推定)
第七百七十二条  妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2  婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
(嫡出の否認)
第七百七十四条  第七百七十二条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる。
(嫡出否認の訴え)
第七百七十五条  前条の規定による否認権は、子又は親権を行う母に対する嫡出否認の訴えによって行う。親権を行う母がないときは、家庭裁判所は、特別代理人を選任しなければならない。
(嫡出の承認)
第七百七十六条  夫は、子の出生後において、その嫡出であることを承認したときは、その否認権を失う。
(嫡出否認の訴えの出訴期間)
第七百七十七条  嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から一年以内に提起しなければならない。